鳶服ですか?ニッカボッカですか?いいえ、ゴト着です。

職を極めた者の風貌は作業服、鳶服とは言わず、
我々はゴト着と呼んでいる。
それは職人にとって、もっとも憧れの服装・鳶装束である。

一般の方々には現場の人の格好はみんな同じに見えるだろう。
しかし!それは大きな間違い。

その職種によって、作業服の形をはじめとし、
色や着こなし方が異なるのだ。

ここでは鳶の服装・鳶装束をしっかりと学んでもらおうと思う。

鳶の作業着・服装、鳶装束とは

足元は地下足袋を履き、足首まで隠れるダボダボのズボン、
上着には夏でも長袖の手甲シャツ、手首には手甲を巻く。
首筋はエリを立て、作業服は全身に油の汚れがついている。

関東と関西で好まれる銘柄や形、色も異なるが、
鳶のズボンといえば白か濃紺で生地はサージ。

しかし、経験が浅いうちは、赤や紫などのハデな色を好む職人の姿も。
それも若気の至りか。
経験を積むにつれ、一流の仕事をする先輩の姿を目の当たりにし、
意識とともに、服装にも変化と成長が起こるのだ。

認めたくないものだな。。。自分自身の若さ故の過ちというものを。

鳶服

鳶は職を極めれば極めるほど、濃紺を好むようになり

仕事に対する意識の変化と共に、
作業着をも立派に着こなしてこそ、
初めて一流の職人となれる。

上記の姿は2000年前後に現場で見られた職人の姿である。
時代が変わると当然、職人の姿も変わっていく。

2015年、現在ではさらに安全に対しての意識が更に高まり、
職人達の姿も大きく変わってきている。

ここからは、少し細かく説明していこう。

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地下足袋について

今でこそ、おしゃれ地下足袋や祭り用の地下足袋が知られ、
ナイキの足袋スニーカーなども登場しているが、
大手ゼネコン建築会社では地下足袋は禁止になり、
指先に鉄板などが入っている安全靴が主流になっている。
足先に重い物を落として怪我をしないようにと。

しかし鳶職人にとってはこの対策が
安全だとはいいきれない部分もある。
常に高いところで仕事をこなす鳶にとっては特に。

足元は悪く、さらに狭い。
安全靴だと、重く指先に力が入らずバランスがとりにくい。
中には高所用とうたわれる軽い安全靴もあるらしいが、
それでも地下足袋ほど、しっくりとはこない。

一方、地下足袋ではこうだ。
足先が分かれていて高所の端部に立ったときに、
足の裏、指先でどのくらい足場が在るかを感覚でわかる。
さらには足の裏で手のひらと同じように鉄骨をつかむ。

鳶職人は足の裏にも目がついてるのだ。
我々、鳶職人にとって地下足袋はなくてはならない存在である。

しかし、時代の変化、状況にあわせ、
素早く対応できるかどうかが職人の腕を問われるところだ。
最近の最も流行は 安全スニーカーである。
アシックスなどの一流スポーツメーカーが参入。

一見、普通の運動靴に見えるが、実は先端に固いプレートが入っている。
そして、軽い。

鳶の服装
ニッカボッカ
鳶の作業服
1980
2000
now

ニッカポッカの意味、ダボダボズボンについて

我々職人はダボダボズボンのことを
七分(しちぶ)やニッカポッカと呼んでいる。
ニッカポッカ(knicker bockers)の意味は、
膝下でくくる、ゆったりとしたズボン。

七分と呼ばれる由来はズボンの長さが七分丈と言うところからである。
ここからは職人らしく「七分」と呼ぶことにする。

実は、この七分のダボダボ部分だが、
危険を回避する為の機能が隠されているのだ。

『七分』ニッカポッカ作業着の秘密

動きやすい機能性

その隠された機能はいくつかある。
鳶の作業は足を高く上げて作業する事が多いので、
腿が太くないと足がスムーズに上がらない。
膝を曲げたりするのに服が邪魔にならない。
つっかえない。というのが一番の理由。

ネコのヒゲと同じセンサー機能

次にあげられる機能はセンサー。
ネコのヒゲと同じ自分の身を守る為の高度な機能が備わっている。

鉄骨建方などの高所作業中は、足元が狭く、
柱や梁など鉄骨部材の出っ張りや、鋭利で危険な場所が多い。

しかし、七分のダボダボの部分があることで、
空間や空気の流れを感知することができ、足元に対する意識が高まる。
ズボンが何かに触れることで瞬間的に反応することができ、
引っ掛かかる事なく走ったり、怪我を回避し身を守る事ができるのです。

自然の驚異に打ち勝つための風力計

秘密の機能はこれだけではない。

高いところでの作業で最も恐ろしいのが強風。
クレーンを使って鉄骨などを組み立てている時は特に注意が必要となる。
吊り荷が風にあおられて回転したり、
取り付けの際に作業員が吹っ飛ばされることもあるのだ。

当然、風が強いと七分がバタバタとなびく。
それを見て、地走り、下まわりの職人が
風の強さや向きを把握し状況にみあった、
より安全な玉掛け作業をこなすことができる。

七分のダボダボが風力計の役目をこなすのである。

作業着の起源

このように機能性を重視して完成されたのが七分なのである。
実はこのズボンの形、元々は軍服だったという説もあるようだ。
軍服ズボンは腿が広く動きやすいなど機能的にも優れていたため、
これをもとに進化させたのが現在の七分ともいわれている。

そして、この七分、一流の職人は仕立てを好む。

老舗の鳶装束専門店での購入が普通で、自分好みの店を持っている。
中には、自分専用にオーダーメイドをする程にこだわりがある職人も少なくない。

近所のワークマンなどで売っている量産メーカーの作業着を買うことはまずない。

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七分のブランド

西の丸源、東の種田

東京は種田。
その知名度は全国区。
もはや一流ブランドとして確立されている。

特徴としては股下部分が長めで、
他の関東圏のブランドに比べて全体的に太い。

大阪では丸源が圧倒的支持を受けている。
職人の街、西成に店舗を構え、
大阪の建築文化を鳶と共に支えてきた老舗だ。

丸源を好む職人は、『その名に恥じないような仕事をしなければ』と
誇りを持って着るという、尊厳のある鳶装束である。

そして、東京と大阪ではその特徴も異なる。

東京では、裾は短めで全体的にスマートなフォルムが好まれている。
一方、大阪では、地面に裾がするほどに長く、全体的に太い。
関東では、太くて長い七分のことを称して
『関西七分』と呼んでいた時代もあった程だ。

まだまだある鳶装束専門の老舗

関東圏では種田に続いて、豊多屋、千曲屋、が主流。
他にも、備前屋、小美屋、愛宕屋などもよく見られる。

量産メーカーではあるが、 関東鳶、三段鳶、博多鳶なども目にする。

関西圏ではカセヤマというメーカーもよく目にする。
丸源に続き人気があり、鳶以外の職人達からも支持が高く、
西日本では圧倒的なシェアを誇っている。

見せかけの安全を求めるゼネコン

このようにして、時代の流れとともに進化し、
伝統と共に鳶の命を守ってきた職人の証である七分だが、
今日では安全対策の対象となってきている。

その機能性をまったく顧みず、
見た目だけの判断で引っかけたりして危ないと言う認識から、
足下を絞って、短く履きなさいと言うのだ。

現場によっては、既に七分が禁止され、
平ズボンを履いている職人もいると聞く。

もしかしたら近い将来、この七分が現場から消える日も、
そう遠くはないのかもしれない。。。。

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